納豆ごはんは世界を救う

第五人格とキャンプにハマる27歳の内省ブログ

むかしむかし

遡ること12年前くらいだろうか。

学校で一人しかいなかった友達と遊んでいたときに青天の霹靂は起こった。

後ろ手で手をつないで二人でぐるぐる回ってたら、不意に遠心力に任された私の上半身が放り出され、顎が大理石の床に叩きつけられた。

顎だけは正面を向き、体はうつ伏せの状態の私の目の前に散らばるのは、私の歯と思しき欠片。

舌で自分の歯を確かめる。
奥歯、その手前、その手前、その手前…
……前歯?前歯がない。前歯がない?!

そのときの自分はどんなリアクションをしてたのだろう。もう昔のことすぎて、あの目の前に歯の欠片が散らばってる様子しか思い出せない。

そしてまた、そのとき友達はどんなリアクションをしてたのだろう。後ろで両手をつないで回っていて突然放された手。
絶対にわざとじゃない、(と信じたい)こんなことになるなんて思わなかっただろうし、とても驚いたと思う。そのとき私よりもショックを受けていたかもしれない。だけど案外、血が出て痛々しかったわけでもないし、小学校低学年で前歯が折れることの重大性なんか分からなかったかもしれない。そうであってくれれば良いとも思う。

何はともあれ、その後私は前歯の神経を抜いたり、歯茎の中が炎症を起こして腫れたり、歯の色が変わって人前で歯を見せて笑うことに抵抗を持つようになったりと、できればこんなことがなければ、と思うことばかりだった。

そして遂に、「就活の前に歯なおさなきゃね」の母の一言で、歯医者に通うことを決めた。
色が変わった歯を周りと同じような歯に。
調べてみると、横浜駅に審美歯科ランキング全国で上位の歯医者さんがあったのですぐに予約した。
お医者さんの説明も分かりやすくて、セラミックラミネートという手法だとそんなに治療に時間もかからなそうだし、なにより全然周りの歯と遜色ないくらい自然な歯になるらしい。実際に治療した写真なんか見て、(歯の色変わってるの、私だけじゃないんだぁ!)なんて明るい気持ちになって、人前で歯を出して笑えることへの希望が溢れてきた。

順調に進み、いよいよ歯の根元の治療が終わった先日。

「まだサインいただけてないみたいなんですが、来週までにご家族とお話されますか?」と言われた。
サイン……?セラミックの種類は決めたはずなのに……と思いながら、前に親とも話してたから、「今日で大丈夫です。」と伝えて受付で待機。

○○さん、と呼ばれて私の元に来た看護婦さんが持ってる紙には、私の歯の治療にかかる総額と、説明と、署名欄。

総額は頭の中でこれくらいだなと計算こそしてたものの、つきつけられてしまうと、やっぱりもう一回親と相談すべきだったかな…と竦むものだった。

だけど私の自慢の親はきっと、
「○○のためならいくらでも出してあげるから一番いいやつにしな」って、たとえ無理してたとしても言うだろう。

だから私も払えるだけ貯金から払って、あとは出してもらおう、と思ってサインした。

私は親にお金をかけてもらってばかりだ。
小中高私立なのに塾まで通わせてもらって。しかも2つも。
狙ってた私立にことごとく落ちたから無駄な入学金を払わずに国立に行けたことだけは少し顔をあげられるけど。
大学入ってバイトしてるのによくお小遣いをくれて、いろんな大きい買い物に出費してくれて。


だから、更にお金をかける海外なんてどうしようもなく申し訳なくて。

この先の自分の人生というものが悉く不安になる。

さらにそこに追い打ちをかけるようにインターゼミの微妙な終わりと、昨日から読み始めた古市さんの『だから日本はズレている』。
明日への希望もなくてただただこの世が明るくなるためにできることはなにもない、みたいなニヒリズムに陥る。


+++

だけど案外、この世の終わりだとさえ思ったあの前歯事件の日から、なんだかんだでこの歯のせいでいじめられることも障害を感じることもなく生きている。

まぁ生きてりゃなんとかなるというものなのかな!

内容のない話でした。